PCM音源
Keywords: PCM音源, DAT, DXシリーズ, EX5, FM音源, PCM, SYシリーズ, エンベロープ, コルグ, コンパクトディスク
PCM音源(ピーシーエムおんげん)は、コンパクトディスク(CD)やDATなどで扱われるPCM技術を用いたデジタルシンセサイザーの音源方式のひとつ。あらかじめメモリに蓄えられたPCM波形(サンプル)を再生することで楽音を生成する。つまり楽器の音をデジタル録音して、それを音の高さに応じて鍵盤に割り振り、鍵盤を押すとそれがスイッチとなって再生が始まるという音源方式である。さながらメロトロンのデジタル版、といったところである。コルグから1988年に発売されたシンセサイザー M1によって本格的にシンセサイザーの音源方式として採用され、今日のシンセサイザーや音源モジュールの大多数を占める音源方式となっている。
サンプルを音源とする為、FM音源等他のシンセサイザーの音源方式と比べ、自然界に存在するような複雑な倍音や変化を有する音を再現することは容易である。しかし、メモリに収録されていない倍音変化を合成することは出来ず、シンセサイザーとしての音作りの自由度という点では他の音源方式に分を譲る(PCM音源を応用したWave Tableと呼ばれる音源方式があることを付け加える)。
PCM音源方式のシンセサイザーのさきがけとされるコルグ社のM1は、サンプルを幾重にも重ねて発音するレイヤー(コンビネーション)機能やVDF(Variable Digital Filter、フィルター)やVDA(Variable Digital Amplifier、エンベロープ)を備え音作りに幅を持ち合わせている。このVDFやVDAによって、ただ鍵盤に楽器音を並べて再生するだけにとどまらず、VDFによって音の明るさを調整したり、VDAによって音の立ち上がりやその消え方といったパラメータを変化させたりすることができる。また、Roland社のJV-1080やJV-2080のように拡張カードを差し替えて膨大な音色を扱えるようにした機種もある。録音された音を鍵盤に割り振る作業というのは難しく、コストがかかるため、80年代末になって商品化されたが、音階を伴わないリズムマシンに関しては、いち早く80年代初頭からPCM音源は採用されていた。ローランド社のTR-909という1983年に発売されたリズムマシンはタムやスネアといった太鼓系の音はアナログ音源だが、ハイハットやシンバルといった金物系の音はPCM音源を採用していた。また、80年代半ばにFM音源のDXシリーズで一世風靡したヤマハであっても、リズムマシンのRXシリーズにはFM音源ではなく、PCM音源を採用していた。
VDFでは、録音された楽器音を削って暗くすることしかできず、VDAで調整可能な時間的変化も限られた範囲での調整となるため、前述の通り音作りの幅が狭い。この点を克服するため、80年代末から90年代の初頭にかけて、シンセサイザーのメーカー各社は工夫を重ねた。ヤマハ社ではFM音源とハイブリッド型のRCM音源を開発し、PCM波形をFM変調できるSY99を発売する。またコルグ社の01/Wシリーズではウェーブシェーピングという波形を変調できる方法を採用した。また同社のWAVE STATIONシリーズでは、波形を繋ぎ合わせることで時間的に変化できるようにした。そしてRoland社ではアナログシンセサイザーと同じように波形を変調できるリングモジュレータを搭載した。しかし、90年代後半以後、波形ROMの容量の増加による、PCM音源の音質の向上、そして、様々な奏法の演奏自体を波形として収録可能になったこと、ハイブリッド音源の音作りの難解さなどの理由からヤマハのEX5など一部の機種を除き、このような工夫を施したPCM音源のシンセサイザーは姿を消していった。
PCM音源は楽器メーカーによってその呼び名が異なっている。ヤマハ社のAWM2音源、ローランド社のRS-PCM音源、LA音源、コルグ社のaiスクエアシンセシスやAccess、HIなどと呼ぶ音源方式はいずれもPCM音源である。これらは各社が開発したチップセットや、サンプルの圧縮方法、ひいてはサンプルされた元の音の違い、フィルターの有無等を明示する為の商業用の商標であると考えてよい。
一方、家庭用ゲーム機におけるPCM音源は、スーパーファミコンの64Kバイトなど、メモリ容量の少なさという厳しい制約がついてまわるため、波形の時間的な変化などは苦手としている(例外として、アーケードゲームの一部は膨大な容量をPCM波形に割いている)。一方でDVDメディアなどからストリーム再生をするときには容量の制約はほぼなくなるが、ローディング時間増などのデメリットがある。家庭用ゲーム機の多くは、この2種類を用途により使い分けている。
