複素数

Keywords: 複素数, 16世紀, 1797年, 17世紀, 19世紀, 1世紀, アレキサンドリアのヘロン, オイラーの公式, カール・フリードリッヒ・ガウス, ジェロラモ・カルダーノ

複素数ふくそすう)とは、実数の単位である 1 に加えて、i2 = -1 を満たす虚数単位 i を新たな数として導入し、二つの実数 x, y を用いて x + iy の形に表現されるのことである。単位(素)が二つであるから複素数というのである。

複素数全体の成す集合は通常 C と記される。Cを成す。また、C は実数全体の成す体 R 上の 2 次元のベクトル空間であり、各複素数はガウス平面と呼ばれる平面上の点として二通りに表される。

複素数 ω = x + iy に対して、x は ω の実部y は ω の虚部と呼ばれ、それぞれ \Re (\omega), \Im (\omega)(あるいは Re(ω), Im(ω))などと記される:

\omega = \Re(\omega) + i \Im(\omega).

実数でない複素数、つまり虚部が 0 でない複素数は虚数とも呼ばれ、とくに実部が 0 のものは純虚数とよばれる。また、複素数の虚部の符号を反転させたものをもとの複素数の共役複素数共軛複素数)あるいは複素共役という。複素数 ω の共役複素数は \bar{\omega} あるいは ω* のように記される。ガウス平面上では、複素数とその共役は、実軸をはさんで線対称の位置にある。

\omega = x + iy \iff \bar{\omega} = x - iy.
目次

歴史

負の数の平方根について、いささかなりとも言及している最も古い文献は、数学者で発明家のアレキサンドリアのヘロンによる紀元1世紀のものであり、そこで彼は、現実には不可能なピラミッドの円錐台について考察している。

複素数の概念が盛んに取り上げられるようになるのは、16世紀にイタリアの数学者(ニコロ・タルターリア、ジェロラモ・カルダーノ)によって三次と四次の方程式の根の公式が発見されたときである。これらの公式は、たとえ実数の根を問題にしている時であっても、時によっては負の数の平方根をとることが必要になる。このことは、負の数でさえちゃんとした基盤を持ったものとは考えられていなかったため、二重に不確定の事柄であった。これらの量に対する虚 (imaginary) という言葉は、17世紀ルネ・デカルトによって、軽蔑的な意味でつけられた。

複素数を解析学に本格的に用いたのはオイラーが最初であろう。彼の輝かしい業績のうちには、注目すべき(しばしば "人類の至宝" とも呼ばれる)等式(オイラーの公式

e^{i\theta} = \cos\theta + i \, \sin\theta

が含まれ、特に

eiπ + 1 = 0

を知ることができる。

複素数の存在は、1797年ノルウェーの数学者キャスパー・ヴェッセル (Casper Wessel) によって、幾何学的に解釈されるまで大半の数学者には認められなかった;このことは数年後にガウスによって再発見され有名になった。ガウスは、彼の学位論文において、今日代数学の基本定理と呼ばれる定理を証明したが(彼は注意深く複素数の概念を表に出さずに論文を書いた)、これは複素数の重要な特徴付けを行うものである。

リーマンはさらに複素数の幾何学的解釈を推し進めて、リーマン面を発見し、その後のトポロジーへの道を切り開いた。二つの実数のペアを用いる正式な定義が与えられたのは19世紀のことである。

幾何的実現

ガウス平面

一つの複素数 x + iy は二つの実数 x, y の組 (x, y) によって特徴付けられる。一方で二つの実数の組はデカルト座標を敷いた平面上の点として特徴付けられる。そこで、複素数を平面上の点と一対一に対応付けることによって、複素数をその内部の点として含む平面を考えることができる。このようにして得られる平面を、ガウス平面 あるいは複素平面(ふくそへいめん、complex plane)とよぶ。ただし、通常の実数体 R 上の平面 R2 を実平面と呼ぶことがあるのと同様に、複素数体 C 上で定義される平面すなわち C2 のことを複素平面と呼ぶことがあり、複素平面という呼称は紛らわしい。実際、C2 の意味の複素平面は実 4 次元の空間である。区別のために、ガウス平面のことを複素数平面と呼ぶこともある。以下、本項ではなるべくガウス平面と呼ぶことにする。

ガウス平面では、x 軸に実部、y 軸に虚部が対応する。つまり、複素数 a + ib に対して、ユークリッド平面上の点 (a, b) が一対一に対応する。

極形式

ガウス平面を利用すると、複素数の極座標による表示として極形式を考えることができるようになる。つまり、点 (a, b) が極座標で (r, θ) とあらわされるなら、この座標変換については次の関係式

x = r\cos\theta,\ y = r\sin\theta,
r=\sqrt{x^2+y^2},\ \theta = \arctan (y/x).

が成り立つから、結局 ω = a + ib となる複素数 ω は、ω = r(cos θ + i sin θ) とも表すことができる。この右辺を極形式と呼ぶのである。さらに、r を ω の絶対値と呼んで |ω| と記し、θ を ω の偏角と呼んで arg(ω) と記す。またここでオイラーの公式

eiθ = exp(iθ) = cos(θ) + isin(θ)

を用いると、ω = r exp(iθ) となって極形式の記述が少しすっきりとする。またこれを、r∠θ のように略記する工学系の分野もある。

積の幾何学的解釈

実数 θ に対して e の値は、点 (1, 0) を 原点 (0, 0) を中心に θ ラジアンだけ回転させたものとして捉えることができる。あるいは

(cos θ + i sin θ) · (cos σ + i sin σ) = cos(θ + σ) + i sin(θ + σ)

が成り立つことから、絶対値が 1 の複素数を掛けることとガウス平面において原点周りの回転を施すことが同等であることを知ることができる。一般に、複素数を掛けるという操作は、ガウス平面上の幾何学的には原点を中心とする拡大縮小と、同じく原点を中心とする回転の合成という一次変換として実現され、逆に平面上のそのような操作に対して複素数を応用することができるようになる。

行列表現

対応

1 \leftrightarrow \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix},\quad i \leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}

により、行列の集合

\left\{\left.\begin{pmatrix}a & b \\ -b & a \end{pmatrix}\,\right|\, a, b \in \mathbb{R} \right\}

が複素数体と同型な体になる。これを複素数の行列表現(行列模型)あるいは左正則表現という。

複素数は、ガウス平面上の点であると同時に、「左からの積」が引き起こす「平面上の変換」としての側面を併せ持っていることを上で述べたが、複素数を実数体 R 上の 2 次正方行列として表現することは、複素数の積を一次変換として捉えなおすという視点をあらわしているということもできる。

実際、二つの複素数 α = r(cos θ + i sin θ), ξ = x + iy の積 αξ は α の行列表現 A と複素平面上の点 z = (x, y) という別々の実現を考えることによって、複素数平面上の点 z を一次変換 A で点 Az にうつす操作であると捉えることができる。

性質

基本性質

a, b, c, d は実数とすると以下が成り立つ:

複素共役

z を複素数とすると、以下の性質が成り立つ:

特に二番目の性質から複素数の共役をとる操作は対合であること、最後の式から、z が 0 でないとき、

z^{-1} = \frac{\bar{z}}{|z|^{2}}

となることなどがわかる。また、z, w を複素数とするとき、以下が成り立つ:

ここから特に、複素数 ω が実数係数の多項式 f(X) の根となるならば、ω の共役複素数 \bar{\omega}f(X) の根となることが従う。すなわち、f(X) が実数係数多項式ならば

f(\omega) = 0 \iff f(\bar \omega) = 0

が成り立つ。

複素数 ω が実数でないならば、体の拡大 R(ω) / RR実数体)は二次拡大で、この拡大における ω の共役元は、ちょうど共役複素数 \bar{\omega} に一致する。すなわち、ω の R 上の最小多項式 f(X) は、R(ω) 上で次のように因数分解される:

f(X) = (X - \omega)(X - \bar{\omega}).

特に、根と係数の関係式から前述のように

\omega + \bar{\omega},\ \omega\bar{\omega}

は実数である。

偏角

偏角については ω が 0 であるときにはこれを定めない。また、θ がある複素数の偏角であった場合、θ + 2nπ(n は任意の整数)もすべてその複素数の偏角となるため、偏角は実数としては一意に決まらない。このためふつう偏角と言ったときには、上の形の数をすべて同一視したものを考えている。この同一視を明示的に表す場合、等号を用いて a = b と書く代わりに ab (mod 2π) と書く(以下ではその記法を用いている)。

複素数の演算と偏角の間には次のような関係がある;

あるいは、複素数 z の極形式は複素変数の指数関数 exp を使って、z = |z|exp(i arg z) のように書くことができるから、z ≠ 0 のとき、これを arg z について解けば

\arg z = -i\,\ln(z/|z|)

と書くことができる。したがって、arg を複素変数の対数関数 ln のリーマン面上で定義された実数値の関数であると見ることもできる。特に、z が連続的に z' まで変化するならば、arg z は連続的に arg z' まで変化する。

乗法群

0 でない複素数を極形式で考えると次が成り立つ:

またここから、

ゆえに、0 でない複素数の全体に乗法を考えたものはになる。これを (C \ {0}, ×), C×, C* のように記す。C における距離空間の位相を C* に制限したもの(部分位相、相対位相)を考えると、C* は位相群である。また、絶対値 1 の複素数全体の成す群(円周群)を U と書くことにすると、UC の相対位相で位相群であり、写像

\mathbb{R/Z} \to \mathbb{U};\, x \mapsto e^{2\pi i x}

および写像

\mathbb{C}^* \to \mathbb{R}_+^* \times \mathbb{U};\,   r e^{i\theta} \mapsto (r,e^{i\theta})

は位相群としての同型である。ここに、R / Z は閉区間 [0, 1] において 0 と 1 を同一視したものであり、R+* は正の実数の全体の成す乗法半群である。

一次変換

複素数 α = a + ib の行列表現を A とするとき、A の行列式 det(A) は a2 + b2 となり、ちょうど α の絶対値自乗 |α|2 (あるいはノルム N(α))に一致する。またこのとき、

S = \frac{1}{|\alpha|}A = \begin{pmatrix} \cfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}} & \cfrac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\\[10pt] \cfrac{-b}{\sqrt{b^2+c^2}} & \cfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}} \end{pmatrix}

の行列式は 1 で、I2 を 2 次単位行列として、SST = STS = I2 が成り立つ。すなわち、S直交行列で、θ = arg(α) とおくと

S = \begin{pmatrix}\cos \theta & \sin \theta \\ -\sin \theta & \cos \theta \end{pmatrix}

と表せる。S は原点を中心とする角度 θ の回転を表す行列で、A = |α|S であるので、A は原点を中心とする |α| 倍の拡大・縮小と原点を中心とする角度 arg(α) の回転の合成でできていることが確認できる。これはちょうど、対応する複素数を極形式で書くのと同じである。特に、体の同型

\mathbb{C} \simeq  \left\{\left. r\begin{pmatrix}\cos \theta & \sin \theta \\ -\sin \theta & \cos \theta \end{pmatrix}\,\right|\, r, \theta \in \mathbb{R} \right\}

が成り立つ。

関連項目

Keywords: 複素数, 16世紀, 1797年, 17世紀, 19世紀, 1世紀, アレキサンドリアのヘロン, オイラーの公式, カール・フリードリッヒ・ガウス, ジェロラモ・カルダーノ