福音書
Keywords: 福音書, Q資料, アラビア語, アラム語, イエス・キリスト, インジール, エウアンゲリオン, エルサレム教会, ギリシア語, ゴスペル
福音書(ふくいんしょ、希 : euangelion 羅 : evangelium)とは、イエス・キリストの言行を、その死と復活まで記述した文書である。新約聖書には、『マタイによる福音書』『マルコによる福音書』『ルカによる福音書』『ヨハネによる福音書』の四書の福音書が収められている。福音とは「よい知らせ」の意。ギリシア語やラテン語を始めとする西洋諸語は「福音」も「福音書」も同じ単語である(福音は一つであるとして複数形では用いない)。英語でゴスペル(gospel)、アラビア語でインジール。
新約聖書中の四書の内、『ヨハネ』を除く、『マタイ』『マルコ』『ルカ』の三書は、共通の記事(並行記事)が非常に多く、一覧にした共観表(シノシプス synopsis)が作られたことから共観福音書と呼ぶ。
- 通常、聖書では『マタイ』『マルコ』『ルカ』『ヨハネ』と並べることが多い。成立順というわけではない。(岩波文書『福音書』は『マルコ』を『マタイ』の前に置く)
- 聖書の正典から外された外典の中にも福音書とされるものがある。(ペトロによる福音、ナザレ人福音書、エビオン人福音書、へブル人福音書、エジプト人福音書、ヤコブ原福音書、トマスによるイエスの幼児物語、ニコデモ福音書、トマスによる福音書、マリアの福音書など)
- ヤコブ原福音書、トマスによるイエスの幼児物語は四福音書に書かれていないイエス誕生前のマリアやイエスの幼少時を記している。
- トマスによる福音書は、イエスの語録という体裁を取っており、イエスの死や復活は書かれていない。
- マリアの福音書は、マグダラのマリアは、イエスの復活後の様子やマグダラのマリアがリーダー的使徒であったが、ペトロら使徒と対立したとの内容である。
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エルサレム教会と福音書
イエスの死後、使徒や親族によって形成されたごく初期のキリスト教団(エルサレム教会)は、イエスの言葉や業を文書化せず(少なくとも、文書化した形跡は確認できない)、口頭で人々に伝えていたようである。エルサレム教会の外部にいたグループの中で、まず『マルコによる福音書』が作られたと考えられている。四福音書はいずれも、イエスの母語であるアラム語ではなく、ギリシア語で書かれており、イエスを直接には知らない人間による執筆と考えられている。(新約聖書の項を参照)
四福音書相互の関連
近代的な聖書研究が始まって以来、成立年代の研究が続けられているが、特に『マルコ』『マタイ』『ルカ』には共通する記事が多く見られることが注目され、成立の経過について様々な仮説が立てられ、検討がされてきた。
今日、聖書学の定説によれば、次のような成立過程になる(ただしカトリック教会の見解では認めていないようである)。
- 四福音書の中で『マルコ』が最も早く作られた。『マルコ』の作者は、様々な伝承・語録を集め、その編集によって、受洗・宣教から死までのイエスの生涯を記述し、福音書の形式をつくった。
- 『マルコ』を参照しながら、『マタイ』『ルカ』が書かれた。『マタイ』『ルカ』を比較すると、『マルコ』と並行する記事には規則性があり、それぞれの筆者が『マルコ』を手元におきそれを素材として各々の信仰を記述したと考えられている。
- 一方、『マルコ』に出てこない記事で、『マタイ』と『ルカ』に共通する記事がある。その記事はイエスの言葉が中心であり、現在では失われたイエスの語録が存在し、それを参照したためと推定されている。このイエス語録と想定されるものを「Q資料」と呼んでいる(Qはドイツ語で史料の頭文字。「Q資料」を復元することも聖書学の目標の一つ)。また、マタイ独自の資料(M資料)、ルカ独自の資料(L資料)も想定されている。すなわち、『マタイ』『ルカ』の成立前に、『マルコ』「Q資料」「M資料」「L資料」の4つがあったと推定されている。
- 四書の内、『ヨハネ』は視点が異なり、神学的にも深められており、共観福音書(三書)からは遅れて成立したとみられる。
四福音書の性格の違い
- (詳しくは各福音書の項目を参照)
前節の違い以外にも、性格の違いがある。例えば、同時代に成立したとみられる『マタイ』と『ルカ』を比べると、『マタイ』は旧約聖書の引用が多くイエスを旧約預言の成就、すなわちメシアであることを強調する内容であり、伝統的なユダヤ教徒を読者として書かれたものと推定されている。また、『ルカ』にはユダヤ的な記事が少なく、ギリシャ語もしっかりしていることなどから、異邦人への宣教を目的に作られたものと推定されている。
