燃料電池
Keywords: 燃料電池, 1839年, 1987年, 1994年, 1997年, 2002年, DARPA, NEC, PDA, アポロ計画
燃料電池(ねんりょうでんち)は、水素と酸素などによる電気化学反応によって電力を取り出す装置である。外部から水素と酸素を供給し続けることで、継続的に電力を供給することができるため、乾電池や二次電池などの電池よりもむしろ発電機に近い。発電効率が高く、ノートパソコン、携帯電話などの携帯機器、自動車、発電所まで多様な用途・規模をカバーするエネルギー源として期待されている。
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固体高分子型燃料電池(PEFC)
燃料電池は水の電気分解の逆反応である、2H2 + O2 → 2H2Oによって電力を取り出す。用いられる電気化学反応、電解質の種類などによって燃料電池は幾つかのタイプに分けられる。なかでも固体高分子型燃料電池は室温動作が可能かつ小型軽量化が可能であるため、携帯機器、燃料電池自動車などへの応用が期待されている。
固体高分子型燃料電池の基本構造であるセルは陰極(燃料電極)、電解質膜(固体高分子膜)、陽極(空気電極)から構成される。セル1枚あたり約0.7Vの電圧を発生し、このセルを積層し直列つなぎにすることで高電圧を発生している。
陰極(燃料極)では、水素やメタノールなどの燃料が供給され、H2 → 2H+ + 2e-(メタノールを用いた場合はCH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e-) の反応によって、プロトンと電子に分解する。この後、プロトンは電解質膜内を、電子は導線内を通って、空気極へと移動する。 一般に、カーボンブラック担体上に白金触媒、あるいはルテニウム-白金合金触媒を担持したものが用いられる。
電解質膜(固体高分子膜)は、燃料極で生成したプロトンを空気極へと移動する働きを持つ。現在では、プロトン伝導性の高さと安定性から、主にNafionなどのスルホン基を持ったフッ素系ポリマーが用いられていることが多い。
この膜中において、プロトンは水和されてスルホン基上を移動する。したがって、膜中の水分が燃料極から空気極へと移動することになる。このままでは燃料極側では水分が徐々に失われてしまうので、燃料には水分を含ませる必要がある。この「水を使用する」という条件から、この系は0℃以下、または100℃以上での使用が困難であるというのが欠点である。
また、燃料としてメタノールを用いる場合は、メタノールが電解質膜を透過してしまう「クロスオーバー現象」が発生する。クロスオーバーの結果、メタノールは空気極でも反応してしまい、起電力を大きく低下させる。最近ではこのクロスオーバーを抑制するために、多孔性ポリイミドやプロトン伝導ガラスを利用する方法などが研究されている。
陽極(空気極)では、電解質膜から来たプロトンと、導線から来た電子が空気中の酸素と反応して、2H+ + O2 + 2e- → H2Oの反応により水を生成する。が、実際はこの「酸素4電子還元」反応の効率はきわめて悪く、起電力を下げる原因になっている。 一般に、カーボンブラック担体上に白金触媒を担持したものが用いられる。
以上の反応から、理論上は約1.2Vの電圧が得られるが、電極反応の損失があるため実際に得られる電圧は約0.7Vとなる。また、燃料効率や寿命、車1台1億とも言われているコスト面など、改善すべき課題はきわめて多い。
固体高分子型燃料電池の燃料
燃料は多様な候補が検討されている。しかし、電極触媒として用いられている白金は一酸化炭素で容易に被毒され、すぐに活性を失ってしまうため、燃料は一酸化炭素が完全に除去されてなくてはならないという厳しい条件がつく。したがって、特に改質による燃料供給は装置が大型化してしまうという問題がある。
- 水素
- 排気ガスとして水蒸気しか発生しないゼロ・エミッションの燃料として注目されている。常温常圧では爆発性の気体である水素をいかにして安全にかつ大量に貯蔵するのかなど、解決すべき問題は多い。カーボンナノチューブや水素吸蔵合金などを用いた水素貯蔵が提案されている。
- 都市ガス
- 都市ガスを改質して水素を作って、その水素を燃料に発電する家庭用の場合、当然のことながら多量の二酸化炭素を発生させる。発電効率は高いといわれているが現在のシステムのエネルギー変換効率(70数%以下HHV)では既存の給湯器(80%)に劣る。発電効率(30数%)が40%を越えるまでは二酸化炭素の削減効果は望めない(二酸化炭素排出増加システムとなる)ことが学会等で明らかになっている(2004年、現在)。各メーカーは40%超を目指して開発を続けている(HHV:高位発熱量)。また、都市ガスに含まれている硫黄化合物は、改質触媒に致命的な損害を与える。したがって予めこれを除去しなくてはならず、改質系はより大きなものとなってしまうことになる。
- メタノール燃料を用いた燃料電池は小型化が比較的容易なため、ノートパソコン(カシオ計算機など)、PDA(東芝など)、携帯電話(サムソンなど)の試作機が盛んに作られている。メタノールを直接セルに投入する「ダイレクト・メタノール方式」と、改質器を用いて水素ガスを取り出す「メタノール改質方式」の2つの方式がある。メタノール改質方式は、より多くの水素をセルに投入できるが、改質器が必要なため小型化が困難である。メタノール燃料電池は、中間生成物としてホルムアルデヒドなどの有毒物質を微量ながら発生するという問題がある。
- ガソリンに改質器を用いて水素ガスを取り出すことで燃料電池に用いることができる。排気ガスとして二酸化炭素等を放出するが、ガソリンスタンド等の既存のインフラをそのまま利用可能であるため、自動車などへの応用は比較的容易である。
- ボロハイドライド系燃料
- 水素とホウ素の化合物であるボロハイドライド系の燃料は1セルあたりの理論出力が1.64Vと高いため、注目されている。空気極に過酸化水素水(H2 O2)を供給することで、さらに出力を上げることが可能である。
その他、燃料の候補としてジメチルエーテル(CH3OCH3)が挙げられる。
その他の燃料電池
- リン酸型燃料電池(PAFC)
- 工場、ビルなどの需要設備に設置するオンサイト型コジェネレーションシステムとして市場投入(100/200kW級パッケージ)がなされている。電解質としてリン酸(H3PO4)を用いる。動作温度は200℃程度で、発電効率は、約40%LHV。すでに商用機にて4万時間以上の運転寿命(スタック・改質器無交換)を達成している(代表メーカー:東芝燃料電池システム・富士電機システムズ)。
- 溶融炭酸型燃料電池(MCFC)
- 火力発電所の代替などの用途が期待されている。天然ガスや石炭ガスを燃料として用いる。水素イオン(H+)の代わりに炭酸イオン(CO32+)を用い、溶融した炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸カリウムなど)を電解質として用いる。動作温度は600℃~700℃程度。常温では固体の炭酸塩も動作温度近傍では溶融するため、電解質として用いることができる。PAFCの対抗馬として、250kW級パッケージが市場に投入されつつある。発電効率は約45%LHV。動作温度が高いため、PEFCやPAFCと異なり一酸化炭素による被毒の心配がない。内部改質方式とされるが、プレリフォーミング用の改質器をシステム内に設置するのが一般的のようだ。(代表メーカー:Fuel Cell Energy(丸紅・川崎重工)、三菱重工)
- 固体電解質型燃料電池(SOFC)
- 火力発電所の代替などの用途が期待されている。天然ガスや石炭ガスを燃料として用い、動作温度は1000℃程度。電解質としてジルコニアなどの導電性セラミックスを用いることが特徴である。また、家庭・業務用1~10kW級としても開発されており、その発電効率は40%LHVを達成している(PEFCの最高値は公称37.5%LHV)。内部改質方式であり、改質器は不要とされる。(代表メーカー:三菱マテリアル(関西電力)、京セラ)
- ナトリウム-硫黄電池(NaS電池)
- 工場,ビルなどの需要設備に設置する負荷平準化を目的とした燃料電池。正極に硫黄・負極にナトリウムを使用している。単価の安い夜間電力で充電し、昼間放電することにより電気料金の削減が期待される。※NaS電池・レドックスフロー電池は、一般的な分類としては二次電池・蓄電池であるが、再生型燃料電池として扱われる場合もある。
- バイオ燃料電池
- 食物からエネルギーを取りだす生体システムを応用した燃料電池。生体触媒(酵素)の働きにより糖分を分解し、電気エネルギーを取りだす。環境の変化に対しても安定して働く強力な酵素が不可欠であり、研究開発では、酵素の寿命を伸ばすことなどが課題となっている。実用化では、血液中の糖分を利用する体内埋め込み型ペースメーカーの開発、ノートパソコンや携帯機器の電源などへの応用が期待される。その他、光合成による植物の生体システムを応用した「太陽光バイオ燃料電池」の研究開発が行われている。※一般にバイオガス燃料電池と呼ばれる下水消化ガスやメタン発酵ガスを利用した燃料電池と混同しないように注意が必要である。
歴史
燃料電池の歴史は古く、1839年にはイギリスのW.Groveが燃料電池の原理を発明している。その後、長らく忘れられた技術であったが、アメリカの有人宇宙飛行計画であるジェミニ5号(1965年)で採用されている。その後、アポロ計画でも採用され、人類初の月着陸を成功させた。これらの燃料電池で用いられた固体電解質膜(ジェミニでは炭化水素系樹脂、アポロではアルカリ性電解質)は寿命が短かく、実用化にはつながらなかった。
その後、住宅用のコジェネレーションシステムや発電施設向けに研究開発が続けられた。1991年(平成3年)には、東京電力五井火力発電所で、出力1万1000kWのリン酸型燃料電池の実証運転が行われている。
1987年、カナダのBallad Power System Inc.がフッ素系樹脂を電解質膜に用いた固体電解質形燃料電池を開発した。この電解質膜の耐久性に優れていたことから、固体電解質形燃料電池が再び注目されるようになり、研究開発が盛んになる。
米国防総省と国防総省高等研究事業局(DARPA)のローレンス・H・デュボワ博士は、様々な液体炭化水素(メタノール、エタノールなど)で動く燃料電池に可能性を見ていた。彼はそこで、南カリフォルニア大学(USC) のローカー炭化水素研究所に所属していた酸の世界的な専門家スルヤ・プラカッシュ博士と、ノーベル賞受賞者のジョージ・A・オラー博士に声をかけた。USCはジェット推進研究所(JPL)、カリフォルニア工科大学の協力の下、液体炭化水素が直接酸化するシステムを発明し、その後これはダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)技術と名付けられた。
1994年、ダイムラーベンツ(当時)が燃料電池自動車の試作車を発表した。また、トヨタは1997年の東京モーターショーに燃料電池自動車の試作車を発表し、2005年までに量産化することを宣言した。
2001年にはソニー、日立製作所、NECなどの日本の大手電気機器メーカーが相次いで携帯機器向けの燃料電池の開発を発表している。
2002年12月にはトヨタおよびホンダの燃料電池自動車の市販第一号が日本政府に納入され、小泉純一郎首相が試乗を行った。現在は首相官邸と経済産業省で使用されているが、24時間のフルメンテナンス体制付きのリース使用となっている。また、04年には日産も横浜市などへ納入した。
燃料電池の実用化を間近に控え、消防法や毒物劇物取扱法、電気事業法や建築基準法などの法的規制が普及を阻む問題として着目されている。2002年10月にはアメリカ運輸省(DOT)が燃料電池の飛行機内持ち込みを許可するなど、燃料電池普及に向けた規制緩和の方針をいち早く打ち出している。
参考文献
- 『日経エレクトロニクス』 2001年 10/22号 p117~p145 「今そこに燃料電池」
- 『日経エレクトロニクス』 2002年 6/3号 p59~p68 「燃料電池、携帯機器に載る」
- 『日経エレクトロニクス』 2003年 1/20号 p49~p55 「売るに売れない燃料電池」
